相談を受けた貴志さん、雅子さんは足繁くふみえさんを訪ねた。
ふみえさんはとても素敵なおばあちゃんだった。89歳という高齢にもかかわらず、頭脳はびっくりするほど明晰。育ちがいいのだろう、困った人を見ると心を痛め、何とかしてやりたいとあれこれ気を遣う優しい人だ。加えて人柄にえもいわれぬ品がある。
「ああ、私もこんなおばあちゃんになりたいな」
と、女性である雅子さんがあこがれてしまう女性だったのだ。
仕事で始まった付き合いが深まるにつれ、雅子さんはふみえさんが心から好きになった。ふみえさんも雅子さんにすっかり心を許したようだった。だからだろう、一段落したころ、ふみえさんが別の相談を持ちかけてきた。
「私ねえ、もうこの歳でしょう。住まいはあのビルの3階なんだけど、エレベーターがないので上り下りするのがつらくなったのよ。それで施設に入りたいと思っているの。でも自分では見つけられなくて。雅子さん、どこか適当な施設を探してもらえないかしら」
経済的には困らなくても、女性の独り暮らしは何かと心細い。それに加えて体力は目に見えて落ちた。ふみえさんが家族同様の何か、いや家族以上に頼れる何かを雅子さんに見いだした背景には、そんな心許ない境遇もあったのかもしれない。
こうして、仕事を越えた付き合いが始まった。
写真=ふみえさんが住んでいたビルがある桐生市の本町通