くすんだ緑が欲しければ、黄色と青緑に少し茶を加える。
白に見せたいときは薄い青か紫で染めると糸の黄色みが消えて真っ白に見える。
そんな知識を身につけたら、あとは試行錯誤あるのみだ。ビーカーで少量の色を作り、糸を染めてみる。見本と見分けがつかない色に染め上がるまで、少なくとも3回、多いときは10数回も試行を繰り返す。
前工程である精練にも力を入れるようになった。精練とは絹糸からセリシンを取り除く工程である。前回書いたように、セリシンをどれだけ取り除くかで絹糸の染まり方が左右される。
簡単に言えば、湯や酵素、石けん水、クエン酸など使ってセリシンを溶かすのだが、これも優しい技ではない。酵素などの量、その時の温度などの基礎は学べばいいが、絹糸は産地によって性格が違うのだ。いや、産地だけではない。極端に言えば絹糸毎に性格が違う。セリシンが落ちやすい糸、落ちにくい糸があるのである。
「ブラジル産の絹糸はなかなか落ちてくれません」
送られてきた絹糸を見てどの精練法を使うかを決める。作業中に何度も絹糸にさわり、手の感触でセリシンの落ち具合を確かめる。教科書に頼りっぱなしではいい仕事はできない。仕事を通して身につけた自分の目と手の技で判断するしかない。
そんな苦労を日々積み重ねているからだろうか。小池均さんはいった。
「はい、この仕事をやってて一番楽しい、この仕事を選んでよかったと思えるのは、染め上がった色が見本とピタリと合ったときです。精練も色作りもあれでよかったんだ、って思えますから」
写真:この小さな部屋で色が作り出される
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