【仕上げ】
糸を傷つけることなく狙った色に染め上がっても終わりではない。染め上がった糸をまず水や湯で洗う。その上で、濃い色の場合は染色固着剤を染色機でかける。終われば柔軟剤と平滑剤を混ぜてリンスする。こうして糸は、一歩ずつ使える糸になっていく。
次は「糸張り」である。綛にまとめられた糸は、どんなに気を遣ってもノズルから吹き出す染料の勢いで乱れ、クシャクシャになっている。そのまま乾かせば、糸同士が絡み合ってしまう。だから、綛のまま2本の棒に通し、丁寧に伸ばしながら絡み合っているところがないか点検する。見つかれば手でほぐしてやるのはいうまでもない。小池染色を出た糸は次の工程である整経屋さんに行くが、
「小池さんの糸は安心だ」
といわれるのは、この丁寧な糸張りのためかも知れない。
最後に乾燥させる。レーヨン(人絹)などは乾燥室に入れるが、絹糸は自然乾燥である。絹糸は乾燥室に入れると静電気を帯びてしまうからだ。
「だから、天気予報が気になる仕事でもあるんですよ」
小池染色の入り口にはいつ行っても沢山の絹糸の綛が竹の棒からぶら下がっている。小池染色の色と糸の整い方は、こうして生まれるのである。
「でも、まだまだです。点数? 欲張りに見積もっても80点ですか。お客様により満足してもらうには100点とはいいませんが、せめて95点は欲しいのですが……」
謙遜は均さんの身についた人間性である。