須永さんがやりたかったことは2つある。
1つ目は試作である。これからの機屋は注文通りの布を織るだけでは生き残れない。試作を重ねてジャカード織の可能性をトコトンまで追求する。誰も見たことがない新作生地が増えれば注文主の評価が高まるはずだ。
障害になるのが紋紙だった。何より金がかかる。新作のアイデアが浮かんでもコストを考えるとなかなか踏み切れなかった。
電子ジャカードを入れると、須永さんは電子ジャカードのデータ作成を内製化した。桐生市内の意匠屋さんに頭を下げ、社員を派遣して意匠の作り方を教えてもらったのである。内製化できればコストは心配ない。須永さんは試作の自由を得た。
2つ目は迅速な対応だ。
注文を受けると試し織りをする。注文通りの布ができることを確認して本格生産に入る。
たった2〜3mの試し織りだが、意匠屋さん、紋切り屋さんに頼っていれば1週間や10日はすぐにたつ。
いまや注文を受けるとすぐに社内で意匠データを作って織り始める。2、3日で試し織りはができる。
「えっもうできたの!」
と驚く注文主がいた。
「驚いてもらえるのは最初だけですけどね。2回目からは、注文の2、3日後には織り見本が届くという前提でお客様は仕事を組み立てられているようです。お客様の大切な時間を無駄にしないご協力が出来たと思います」
織り見本を見て手直しを求める顧客もいる。電子ジャカードを入れる前は再び意匠屋さん、紋切り屋さんに仕事を出してコストがかさんだが、もうコストの心配もない。
電子ジャカードは、大量生産で効率を上げるために大手が導入するケースが多い。だが須永さんは、全く違う電子ジャカードの使い方を見つけた。小さな機屋が生き延びるための知恵である。
写真:須永康弘社長
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