120%ということ 須裁の2

【120%=独自の技】
須永さんが経糸(たていと)に絹糸を使った生地に力を入れ始めたのは2016年ごろからだ。

絹糸は細い。それに、虫眼鏡で拡大してみれば分かるが、天然繊維である絹糸は太くなったり細くなったりしている。天然繊維である以上、避けられないことである。
だから、まず機織りの前提作業である整経が難しい。整経を終えて織機にセットしても経糸に持たせる張りが強すぎると簡単に切れてしまう。緯糸に使うのなら簡単だが、経糸には使いづらいのである。手機で織るのならともかく、高速で動く織機の経糸に絹糸は向かないのだ。

「私もそう思ってほとんど使いませんでした。全国でも経糸に絹を使うところはほとんどない。でも、ふっと思ったんです。ライバルが少ないのならビジネスチャンスじゃないかと」

試した。試作は須永さんの得意技である。だが、やはり難しい。何度も糸切れに見舞われた。そのたびに織機を止め、切れた糸を繋ぐ。やっぱり無理なのか。何度も諦めかけた。

3ヶ月、半年。色々と試しているうちに糸切れの回数が減った。須裁の織機からオールシルクの布が生まれ始めた。オールシルクならではの手触り、光沢。別格の布に思えた。

「基本は織機の速度を落として経糸にできるだけ張りがかからないようにするんですが、それだけじゃない。はい、ここから先は企業秘密です」

須裁は経糸に絹が使えるらしい。そんな話がどこから広がったのか分からないが、いま、経糸に絹を使う織物の注文は右肩上がりに増えている。

「私はね、うちでしかできないことをやりたいんです。まだたいした物はありませんが」

という須永さんは、挑戦に貪欲だ。

ある日、須裁の織機に銅色の糸がかかっていた。銅繊維である。

須裁の織機に見慣れない銅色の繊維がかかっているのを筆者が見たのは2020年頃だった。

「これ、何ですか?」

と聞くと、

「銅繊維です」

前橋の繊維会社が細い繊維に銅箔を巻きつけて作った糸である。携帯電話などの規格は5Gに進化しつつあるが、5Gの電波を中継する基地局はノイズを拾いやすく、シールドを厳重にしなければならない。そのシールド材として期待されているのがこの銅繊維で織った布なのだ。

「経糸は綜絖(そうこう)の穴を抜け、筬(おさ)の隙間を通るでしょ。銅繊維だと金属と金属がこすり合って綜絖も筬も傷むんで嫌われるんですよ。でもね、その会社が折角開発した新しい糸だから、どこかが布にしてあげなきゃならない。だったら、私がやってみようか、と」

2022年秋に訪れたときは、同じ織機に和紙の糸がセットされていた。オール和紙の布。これも須裁の挑戦である。

その隣の織機から出て来た布は

「ほら、これは伸び縮みする布です。経糸にゴムの繊維を使うんですが、張りの調整が難しくてね」

繊維も織物も進化を続ける。これからも新しい機能を備えたたくさん生まれるはずだ。その進化の幾分かを須裁が担うことになるのではないか。

須裁の工場を訪れると、そんな気がする。

写真:須裁の外観。観光名所でもある。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です