180台の特殊ミシン シャオレの2

ドローンワークは針が上下するところに、上下に刃のついたパーツをセットする。上の刃はバネで押し下げられる仕組みで、これで切りたい糸を押し下げ、下の刃と摺り合わせて切り取る。こんな仕組みだから生地の厚み、生地の目の粗さ、使われている染料などに合わせた細かな調整が必要だ。櫻井さんはいつも、わずか15分ほどでこの調整を終える。続けているうちに技には磨きがかかり、いまでは幅1㎝近い穴を空けられるようになった。

「うーん、そんなところまでミシンを追い込んでいるのはほかにはないかもなあ」

前回紹介した、ピコカット、ダブルピコット刺繍などほかの特殊刺繍屋さんが断った刺繍がシャオレに持ち込まれるのは、こうした「機械職人」技のたまものだろう。

自作パーツの数々

櫻井さんはまた、特殊ミシン用のパーツ自作もお手の物だ。
太い糸で生地の端を貝殻状にかがるシェルループという特殊刺繍がある。縫い糸を正確に送り出すガイドとなる金属製のパーツは安くても5万円ほどする。櫻井さんは

「そんな金出せないよ」

と切削、研磨加工前の半製品を買う。これだと5000円ほどで手に入る。旋盤もフライス盤も持っていないからヤスリで削り出してパーツに仕上げる。

それだけなら単なる節約だが、自作の強みは一工夫、二工夫を加えられることだ。縫い糸のガイドを針金からパーツ本体に空けた穴に変え、その穴も真っ直ぐではなく斜めに空けた。こちらの方がより正確に、スムーズに糸をガイド出来る。電動ドリルで鉄のかたまりに3㎝ほどの深さの穴を掘るのだから、大変な手間だ。

「なーに、暇だからやっちゃうのさ」

シャオレの工場には、180台の特殊ミシンと並んで、こうした自作パーツが沢山ある。工場の一角は工具に占領されている。

「時々ね、こんな刺繍を縫ってみたいなあとふと思う。だったら、こんなパーツがいるかな、と考えて工場に入るのさ」

櫻井さん自作の糸注入器

2枚の生地を重ねて刺繍で花や星など様々な形を縁取りした後、生地の間に糸を封入する加工がある。図柄に立体感だけでなく、触った時の柔らかさを醸し出す特殊な加工だ。立体感だけなら刺繍糸を重ねればよいが、それだと固くゴツゴツしてしまう。さて、刺繍で縁取りされた形の中に、どうやって糸を入れるのか?

櫻井さんはDIYショップで1000円も出せば手に入るエアダスターに、ステンレスパイプから切り出した針をつけた。針の中に糸を通して空気圧で糸を送り込む。

「うまく行ったわ。2枚の生地の合間からこの針を刺す。針先は自由に動かせるから、まんべんなく糸を送り込めるんだよね」

わずか千数百円で出来た櫻井オリジナルの「糸注入器」の出来上がりである。

時にパーツ作りは夜中の2時、3時までかかる。櫻井さんは寝るのも忘れて新しいパーツ、新しい特殊刺繍作りに取り組む。

写真:新しいパーツ作りに励む櫻井さん

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です