青春時代とは、世の中を仕切っているように見える大人たちを憎みながら、でも、大人の世界に憧れる矛盾した時期である。大人ってなんて汚くてバカなんだろうと頭の一方で吐き捨てるのに、他方には早く大人の仲間になりたい自分がいる。親や教師に隠れてこっそりタバコを吸って粋がるのも、酒を口にして酔いを覚えるのも、一足飛びに大人の自由な世界に飛び込む早道だと見えるからでもある。
この時期に、車やバイク、飛行機などのメカに強烈な魅力を感じ始めるのも、閉ざされた世界で日々悶えている今の自分を、鎖をぶっちぎってもっと自由な世界に運び出してくれる強力な武器に見えるからではないか。
二渡さんの記憶によると、車とバイクに強く惹かれ始めたのは中学時代のことだった。車のアクセルを思い切り踏み込み、自在に操ってみたい。バイクで初夏の心地よい風を切り裂きたい。自宅の近くに、車高を低く、いわゆる「シャコタン」に改造した車、ピカピカに磨き上げた、いかにもかっ飛びそうな大型バイクを自在に乗りこなしている先輩たちがたくさんいたからかも知れない。
とりわけバイクにのめり込んだ。バイクの図鑑を手に入れて飽きずに眺め、街中を、山道を、草原を走り回る自分の姿を思い浮かべた。
「うーん、いま思えば、車やバイクが大人のシンボルに見えたのかも知れませんね」
バイク熱は高校に進んでも冷めなかった。いや、益々燃えさかった。
「バイクの方が早く免許が取れるんですよ、16歳で。だからでしょうね。車への関心はもちろん持ち続けていましたが、『もうすぐ乗れる』バイクへの思いが高まる一方でした」