その足で桐生市内のプリント工場に回った。
新しいデザインのプリントを発注すると二渡さんは必ず工場に足を運び、チェック、というより工場の一員になってプリントを産み出す。
例えばTシャツへのプリント。
「出来上がりは同じように見えるかも知れませんが、白地に黒のプリントと黒地に白のプリントは、同じプリントといいながら実は違うんですよ」
白地に黒インクを乗せるのなら1回のプリントで済むことが多い。しかし、黒地に白でプリントしても
「白地に黒と同じ質感にしなければならない」
と考えるのが二渡流である。
1度のプリントでは白が生地の黒に負ける。だから2度、3度とプリントを重ねる。だが、重ねても狙った白が出ないと
「インクを変えてみようよ」
といいだす。他のインクでも狙い通りにならないと、インクの調合が始まる。
「この白に少し黄色を混ぜてみたらどうだろう?」
満足できる「黒地に白」のプリントができるまで試行錯誤が続く。熱意と根気の要る仕事だ。しかも、同じTシャツでも素材が変われば、ピッタリするプリント法もインクも変わってしまう。そのたびに、ゼロに戻って同じ試行錯誤の繰り返しである。