【メリヤス】
編み物のこと。
日本に編み物の技法が伝わったのは比較的遅かった。17世紀から18世紀にかけてスペインやポルトガルから靴下などとして入ったといわれる。靴下のポルトガル語「メイアシュ」(meias)、スペイン語の「メディアス」(medias)が当時の日本人の耳には「メリヤス」と聞こえたらしい。
漢字で「莫大小」と書く。「莫」は否定の意味を持つ。編み物が伸び縮みするため、「大小がない」の意味でこの漢字があてられたという。
かつては編み物や伸縮性のある生地全般を「メリヤス」と呼んだ。その後、主に肌着をメリヤスと呼んだ時期を経て、いまやほぼ死語に近い。「中島メリヤス」は、伝統ある「メリヤス」を社名にしている数少ない会社の1つである。
現代では編み物全般を「ニット」といい、肌に触れない外衣を「ジャージー」と呼ぶのが一般的になった。ニットといえばまずセーターやマフラーが思い浮かぶが、「中島メリヤス」は生産していない。日々作りだしているのはジャンパーの袖、裾、ポロシャツの衿など、業界でニットパーツと呼ばれる衣服の部分品である。70年を超すパーツ専業メーカーで、創業当時の手動編み機の技法を伝承するからこそ出来る、細部にまで神経が行き届いた丁寧なものづくりの技が高く評価されている。
【伝統のチェックを超えた!】
あるスポーツ用品メーカーから、チェック柄のポロシャツの衿の注文を受けた時のことだ。検品に訪れたメーカーの担当者が出来上がった衿を点検しながら、驚いたような顔を、「中島メリヤス」の3代目経営者中島敬行さんに向けた。
※ポロシャツは丸編みした本体部分に、衿、袖口などのニットパーツを縫い付ける。
「これ、あのポロシャツの衿よりも綺麗ですね!」
英国に世界的に著名なトレンチコートメーカーが2社ある。担当員が指摘したのは、そのうちの1社が販売しているポロシャツだった。誰もが一目で分かる独特のチェック柄を衿に扱ったポロシャツが市販されていた。
あの衿より、うちで編んだ衿の方が綺麗?
「この、縦と横のラインが重なる部分ですよ。ほら」
経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交差させる織物と違い、編み物は糸が作るループ同士を絡み合わせる。手近にニット製品があれば手に取っていただきたいが、編み目が明瞭に表に現れる。緯編(よこあみ)するポロシャツの衿はV字型に編み目が並び、複数の色を組み合わせると、この「V」が並んでラインになる。