水をはじく機能を持つ撥水剤を、架橋剤と呼ばれる薬剤で繊維に付着させる。言葉で書いてしまえば、撥水布を作るのはそれだけのことだ。いまなら、撥水加工ができるのは朝倉染布だけではない。
だが、技術開発の歴史とは、「それだけのこと」を実現するために流された汗の歴史でもある。
東レに呼びかけられた朝倉染布は共同研究に取り組み始めた。撥水剤を何に溶け込ませれば布に着きやすくなるのか。架橋剤にはどれがいいか。量産化するためにはどんな設備が必要か。課題は山ほどもあった。2社の共同研究チームは一つずつ難所を乗り越えていった。
試行錯誤を重ね、やっと布の撥水加工に成功したのは1980年のことである。撥水機能を持つ布を創り出すことができたのである。使ったのは有機溶剤にシリコンを溶け込ませた撥水剤だった。東レと朝倉染布は共同特許を取得し、すぐにおむつカバー用の生地として加工を始めたのはいうまでもない。
1980年、蒸れない、漏れないおしめカバーが売り出された。狙い通り、お母さん、お父さんに大歓迎を受けた。大成功である。
だが、問題があった。20回ほど洗濯すると、目に見えて撥水機能が落ちたのだ。
赤ちゃんの肌は清潔に保ちたい。だから洗濯の回数は増える。
だが、洗濯とは布地に付着したものを強制的に引き離すことである。洗剤には、わざわざ付着させた撥水剤や色と、汚れを見分ける力はない。どちらも、布地から引き離さねばならない邪魔者として、遠慮なく引き離しにかかる。