【縫製】
服は数多くのパーツが縫い合わされてできている。この、各パーツを縫い合わせて完成品にする工程を「縫製」という。家庭内で趣味的に服を仕立てる「裁縫」もその一種だが、作業を効率化するため設備を導入し、産業として服を仕立てることを「縫製」ということが多い。
縫製業は通常、アパレルメーカーから注文受けて仕事が始まる。求められるのは、メーカーが作ったパターン、仕様書の通りに服を仕上げること、つまり正確さだ。ペーパークラフトに挑んだことがおありだろうか? 数多くのパーツを組み合わせ、ノリで貼り合わせて3次元の立体を作る工作だ。縫製もやはり、型紙に従って裁断したパーツを縫い合わせて体の曲線にピッタリ合う3次元の服に仕上げる。
だから、せいぜいペーパークラフトができる程度の技があればできる、と考えると大間違いである。最大の理由は、紙は歪んだり伸びたりしないのに対し、布、あるいは縫製の対象になる皮やビニールシートなどは伸びもするし歪みもすることである。さらに具合が悪いことに、使ってある糸の種類、太さ、織り方、編み方などで伸び方、歪み方が違う。また、布地を布目に沿って引っ張るのか、布目に斜めになる方向に引っ張るかでも変わる。それをのみ込んだ上で指示通りに3次元の服を仕上げるには、高度な職人技が必要になることはおわかりいただけると思う。
縫製業の仕事は、まずパターン通りに生地を裁断することから始まる。10枚、20枚の生地を重ねて裁断機にかけるが、生地によって伸び方、歪み方が違うため裁断の仕方を変えなければパターン通りのパーツができない。職人さんは手で触って布地の性格を読み取り、最適な裁断方法を選ぶ。また、どうしても伸びや歪みが取れない生地には、樹脂を吹き付けて型崩れをしないように加工した「接着芯」を張り付けた上で裁断する。
次は、裁断したパーツをミシンで縫い合わせる工程だ。シャツの前立て(二重になってボタン穴が縦に並んでいるところ)のように、布目に沿って直線に縫えば済むところは比較的に簡単で、数ヶ月すればできるようになる人が多い。難しいのはシャツなら裾や衿に出てくる曲線だ。場所によって布目との角度が変わり、伸び方、よじれ方に変化が起きるためで、指先の感触に頼って布地をなだめながら美しく縫いあげるには少なくとも数年の修行がいるといわれる。また、シャツの袖口には着脱が簡単なように切り込みが入っているが、ここを強化するために短冊状の布を縫い合わせている(「剣ボロ」という)部分も難度が高い。