雅子さんにとってみれば、ふみえさんは母親の年代の方である。でも、気が合う、とはこういうことをいうのだろう。お互いに気を遣いながらちょうどいい距離を保つ付き合いは心から楽しかった。ふみえさんはもう高齢だったから、そんな関係が10年も15年も続くとは2人とも考えてはいなかっただろう。しかし、まさかわずか1年半で終止符が打たれるとは想像もしていなかった。
2013年5月だった。1階の不動産会社アンカーの事務所で仕事をしていた雅子さんは、いつものようにヘルパーさんが来たことに気がついた。ヘルパーさんが来れば、間もなくふみえさんが降りてくる。今日も元気で介護施設に行くんだな、と瞬間思ったような記憶がある。しかし、すぐに仕事に紛れて忘れてしまった。適度な距離感とはそういうものである。
昼を過ぎたころだった。ヘルパーさんが、どういう訳か民生委員を伴ってアンカーの事務所に入ってきた。何事だろう?
「今朝、ふみえさんが出てこられなかったんです。これまでそんなことはなかったのですが、何かご存じありませんか?」
ドキッとした。それじゃあ、今朝、ふみえさんは降りてこなかったのか。ひょっとしたら自力では部屋から出られなくなっている? いまふみえさんはどうなっている? 無事?
「私、ヘルパーさんには私の携帯の番号も知らせてあるのに、なんにも連絡してくれなかったじゃないですか」