その1 会社を閉じよう
「兄貴、もう会社を閉じようか」 敏夫専務が弱気の虫にとりつかれたのは、2004年の末だったという記憶がある。突然の話に驚いた智司社長がのぞき込むと、疲れ果てたような弟の顔があった。 会社を閉じる? 代々受け継いで守ってき...
「兄貴、もう会社を閉じようか」 敏夫専務が弱気の虫にとりつかれたのは、2004年の末だったという記憶がある。突然の話に驚いた智司社長がのぞき込むと、疲れ果てたような弟の顔があった。 会社を閉じる? 代々受け継いで守ってき...
ファストファッションとは、最新の流行は取り入れながら、価格はギリギリまで抑えた衣料品である。 「同じような機能なら、安いもので充分。できればファッショナブルであってほしいが」 とは、バブル崩壊後の低迷する経済社会を生きて...
不思議なことに、それでも智司社長に絶望感はなかった。いいマフラーを作り続ければ、絶対に何とかなると、何故か確信していた。 「私は全国の同業者を全て知っています。うちで作っているようなものを作れるところはどこにもありません...
何事でも後講釈は簡単である。成功した今になって考えれば、 「どうしてもっと早く気がつかなかったのか」 といいたくなるほどの当たり前の発想である。だが、アイデアとは無から生まれるものではない。雑多なままに頭の中で漂い続ける...
とりあえずの営業方針が固まった。攻めるのはニッチマーケットである。そして松井ニット技研には、1つだけ、すでに知っているニッチマーケットがあった。 美術品を愛する人々 である。 美術館までわざわざ足を運び、入場料を払って選...