第3弾はパンツである。バイクライダーに必要なパンツとは?
・摩擦に強く、丈夫である
・水をはじく
・風を防ぐ
・ブーツが履きやすい
ピケ織り(表面に畝ができる織り方)の生地を使い、そこに蝋を引いた。これで摩擦が減り、水をはじき、風を防ぐ。蝋引きのパンツは他では見かけない。すりきれやすいヒップの部分は布を二重にした。
裾の両サイドにジッパーをつけた。ブーツを履くときはこのジッパーを開ける。
これでライダーパンツの機能は確保した。しかし、二渡流はそこでは止まらない。
お尻のポケットを二重にした。普通のGパンの後ろには、腰とヒップを切り分ける縫い目がある。この縫い目を使って、左右にポケットを作った。普通のポケットはその上に縫い付けてある。バイクライダーはたくさんの小道具を持ち歩く。ポケットは多い方がいい。
ポケットの位置にも気を配ったから、
「尻のポケットに財布を入れておくと、バイクのシートにはぶつからず、しかも落ちにくいんです」
そして、動きやすいことも必要だろう。伸縮性のある生地を使い、膝の部分は曲げ伸ばしがしやすい立体裁断を採用した。
2020年4月、取材のために「FREE RIDE」を訪れた。二渡さんはミシンに向かい、パンツへのタグ付け作業中だった。横に十数本のパンツが積まれていた。
「どこかに出荷するの?」
と聞くと、二渡さんが答えた。
「いえ、1人のお客さんが20本まとめて注文してきたんです。うちのパンツを1度はいたら他のパンツははけなくなったって、いつもまとめて注文を下さるんですよ」
そして、短足が多い日本人に向けて、足が長く見えるシルエットを工夫した。
「『お父さん、足が長く見えて格好いい』って、娘が初めていってくれた、というお客さんもいましてね」
どんなパターンだと足が長く見えるのか。デザインに不案内な筆者にはよく分からない。だが、試しに1本買ってみた。はいて人に会ったら
「うわー、足が長く見えて格好いい!」
といってくれる人が1人だけいた。筆者の場合、それは99%お世辞であろう、と解釈しているのだが……。
いまでも、二渡さんは毎月数点の「新商品」を出し続けている。常連客からは
「革ジャンは買ったばかりなのに、もう新製品が出たの?!」
とクレームをもらいながら、
「なんか、創作意欲がちっとも衰えなくて」
とすまし顔を決め込んでいる。
写真:「SKULL FLIGHT」は「FREE RIDE」のブランドである。