いつもは自慢のHARLEYでやって来る高崎市の常連客が車で訪れた。20020年春のことである。聞くと、愛車はいまドレスアップに出してあるという。
「次はHARLEYで来ますよ!」
と言い残して去った彼は、1週間後、再び車で現れた。
「あれ、バイクで来るんじゃなかったっけ?」
と声をかけると、
「実は……」
仕上がったHARLEYを早速乗り回していたところ、事故を起こしてしまったのだ。愛車は再びドックに入院中とのこと。そこまで話すと、彼はおずおずと、ズタズタに破れたパンツを取り出した。
「これ、事故の時に履いていたヤツなんだけど、何とかなりますか?」
見れば、転倒して道路を滑っていったのか、あちこちがすりきれている。破れているところも沢山あった。
「なんか可愛くて。一緒に事故ったパンツでもあるし、捨てるに捨てられなくて……」
店に備えてあるミシンの前に座った二渡さんの作業は2時間もかかっただろうか。これなら何とか使えるだろう、というところまで修復ができた。
渡すと、
「うわー、よかった! ところでおいくらでしょう?」
ぼろきれに近かったパンツの修復を頼んだのである。当然、費用がかかると誰もが考える。ところが。
「何言ってんの。転んで痛い思いをしたのはお前さんだろうが。金なんか取れるかよ」
これ、店主と客の会話である。店主が客を「お前」と呼び、「取れるかよ」と締めくくる。ほとんど見かけない情景だ。
二渡さんが成功に思い上がっているのだ、と見る向きもあろう。だが、店の片隅で客との会話に耳を傾けていると、いつもこの調子なのだ。店主と客と言うより、友人同士の会話なのである。だから、客が年上なら自然な敬語が出る。同輩、あるいは年下なら、二渡さんの言葉は友人、先輩の言葉使いとなる。