FREE RIDE ライダーは桐生を目指す その13 肌のぬくもり

ネット全盛のご時世に、「FREE RIDE」にはホームページがない。ネット販売もやっていない(代理店の一部はやっている)。

「顔と顔を合わせて、言葉を交わさないと楽しくないんですよ。私の創ったウエアをどんな人が使ってくれているのか、いつも分かっていたいじゃないですか」

雑談の中で、さりげなくウエアの使い心地を聞く。ああそうなの。今年の冬は金沢の兼六園まで走って来たんだ。寒かったでしょう。ジャケットは風を巻き込まなかった? パンツは大丈夫だった? もう少し何とかならないかなあ、って思ったことはなかった?

「こんなの、ネットでやってたら、アンケート方式にするしかないでしょ。そうすれば書き込む方も面倒だし、質問を考え集計する方だって事務仕事にしかならない。つまらないですよ」

こうして集めた情報は次の改良、開発のヒントになるだけではない。

「お願いしている工場の職人さんたちにも伝えます。ここがこんなだから、って喜んでいる人いた、なんてね。職人さんたちはユーザーの声を聞くことなんかないからすごく喜んでくれて。ええ、モチベーションが上がるって言ってくれます」

デジタル全盛の時代である。情報伝達や物の販売だけでなく、会議すらネット経由で開くのが合理的であり、時代の最先端であるといわれる。
だが二渡さんは、肌の温かさが感じ取れる距離にこだわり続ける。

だからだろう。遠くから来てくれた客が

「途中でテントで寝て帰ります」

などというと、もう放ってはおけない。

「うちでよかったら、泊まっていきませんか?」

桐生市の隣、みどり市笠懸町の自宅には客用の寝室だけでなく、専用のバストイレまで備えている。その日は、二渡さんがキッチンに立って料理を振る舞ったり、一緒に夜の町に出かけたり。

「私が作った物を使って下さるのは、こういう顔をした人で、こんな話し方をして、あんな癖を持っていて、なんて分かっているから、今度はこんな物作ったら喜んでもらえるんじゃないか、って考える。人ってそんなもんじゃないですか? すべてがデジタルで、遠距離で、になったら、いい物はできなくなると思いますよ」

二渡さんは人が大好きなのである。

写真:客とは肩を組む仲。それが二渡流だ。左の方は事故った人ではありません。

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