いまではすっかり「FREE RIDE」にのめり込み、ジャケットもパンツもインナーも、すべてこの店で揃えて6、7セット持っているという客が言った。
「最初見たとき、うわー、柄の悪い店だな、って」
初見で強烈な違和感を覚えるのは私だけではないらしい。
だがこの店は、四半世紀に渡って全国のバイクライダーを引き寄せている。であれば、経営者である二渡一弘さんの人柄、商売哲学の一部はこの店に現れているはずだ。
「ああ、店の名前ね。ええ、わざと目立たないようにしたんです。今じゃ初めてのお客さんもスマホ頼りでこの店に直行しますが、店を開いたときはそんな便利なものはなかった。だから、桐生まではたどり着いても、あちこちで『FREE RIDEはどこ?』って訪ね歩いてくれたんですよ。そうすれば桐生を知ってもらえるし、桐生の人と知り合ってもらえる。うちの店に直行、直帰より楽しんでもらえるじゃありませんか」
客を楽しませ、桐生を楽しんでもらう。それが二渡さんの狙いらしい。
では店内は?
「通路を狭くしたのは、5、6人も店に入れば満杯に見えるようにするため。店ってガランとしてたらつまらないですから。それに、お客さんはイヤでも隣の客のつぶやきを聞くことになる。人間誰しも、隣のことは気になる。『これ、何? 見たことないね』といいながらパンツを買って行った隣の会話を聞いて、『あの人のパンツ、どこにある?』というお客さんも出てくるんですよ」
これは商売のテクニックか。
そして、外観は?
「大通りから1本外れた通りにあるほこり臭い、マニアックな店、を演出しました。いってみれば、大通りは東京で、桐生は裏通り。でも、裏通りには大通りにはあり得ない店がなくちゃつまらないでしょ? それに、謎、ってのが大好きなんです。何なのかよく分からない店。それでかなあ、『雑誌で見たけど、裏メニューの商品はありませんか?』って問い合わせをもらうこともあります。謎、を感じてくれたんですね。もちろん、裏メニューなんてありませんけど」
二渡さんは一筋縄ではいかない、不思議な感性の持ち主である。
写真:店の前に立つ二渡夫妻