FREE RIDE ライダーは桐生を目指す その6 バイクに乗るということ

しかし、バイクライダーはそんな安楽な姿勢は取れない。シートにまたがり、ハンドルに手を伸ばすと上半身は前屈みになる。腕と胴の角度は90°前後になり、肘はめいっぱい伸びる。ライダーを周りから守るものは何もなく、速度を増せば増すほど遠慮なく風が襲いかかる。

「まず、身体を前に倒すからジャケットの背が上に引っ張られ、腰が出てしまいます。腕を伸ばすから袖が引き攣れて腕が露出し、おまけに風が吹き込みます。首回りを守る仕掛けがないので、首筋から風が吹き込みます。挙げ句の果ては、ジャケットの中に吹き込んだ風の力でジャケットの背中がパンパンに膨らみ、悪くすると破れてしまいます。当時のバイクライダーは、そんな悪条件に耐えながらバイクに乗っていたわけです」

こよなくバイクが好きな人たちだからこそ難行苦行に耐えているのだろう。だが、できることなら、もっと楽しくバイクに乗りたいではないか?

高校生の時からバイクに乗り始め、このころは憧れの「HARLEY-DAVIDSON FXE」を乗り回していた二渡さんはバイクウエアへの不満を募らせていた。しかし、あれほど世界中を探しても、これは、というウエアは見つからなかったのだ。諦めるしかないのか?

「いや待て。なければ作ればいいじゃないか。10数年バイクに乗ってきた俺が納得できるウエアを作れば、多くのバイクライダーたちに喜んでもらえるのではないか?」

とはいえ、そう考える自分を振り返れば、桐生という地方都市の、洋服を商う一介の商店主に過ぎない。

「できるはずはないよな」

と、最初は投げやりになってこのアイデアを捨てようとした。だが、どこか引っかかる。これを捨て去っていいのかと誰かが頭の中で叫び続ける。

「何とかならないか」

二渡さんは考え続けた。

写真:愛車で楽しむ二渡さん

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