何度も説得した。社長が
「じゃあやってみましょう」
と折れてくれたのは、二渡さんの熱意のたまものだろう。
パターンを描き始めた。袖を普通のジャケットより6、7cm長くした。袖口にはムートンを縫い付け、加えて中にセーターの袖口のようなリブ織りのインナーをつけた。これでバイクで運転姿勢を取っても、袖はつり上がらず、袖口からの風を防ぐことができる。
着丈はハーフコートほどに長くし、裾にひも(ドローコード)を通した。腰が露出するのを防ぎ、ひもを結べば裾が閉まってバタつかない。
首回りは、ジッパーを引き上げると鼻まで届くタートルネックになるようにした。乗るときはこれを折り曲げる。首筋から風は入らない。
腕が自然に動くように袖は部分的に絞り、立体的な造形にした。袖と胴の部分を繋ぐところは斜めにカットするラグランスリーブを採用した。
……。
「二渡さん、こんなパターンじゃ縫えねえよ!」
社長からは何度も泣きが入った。
「そこを何とか。こうしないと私が思っているジャケットにならないんです!」
と拝み倒した。
その日、店を閉め、食事も済ませた深夜、工場に立ち寄ってみた。昼間は泣き言を言っていた社長がミシンに向かい、二渡さんが描いたパターンを何とか縫い上げようと悪戦苦闘していた。
試作品ができると自分で身につけ、バイクを翔った。
「社長、まだこのあたりがね……」
そうやって改良した試作品は5、6着に上る。
「よし、これでいい!」
いまでも売れ続けている不朽の名作、「RIDERS N-3B」ができた。
「あれ? いつだっけ。1996年? 97年かなあ」
写真:これが「RIDERS N-3B」