試みに手がけたのはTシャツである。ジーンズと同じインディゴで染めた。が、それだけならたいして面白くない。二渡さんはさらに一手間、二手間加えた。鳥の骨を縫い付けた不思議なTシャツだ。
奇抜なファッションである。普通の感覚を持っていると信じて疑わない筆者は、目にしたら思わず引いてしまいそうだ。
ところが、展示会に出たこのTシャツが評判を呼び、東京の店に並ぶと飛ぶように売れた。注文が相次ぎ、前の注文分がまだ出荷できないうちに、次の注文がやってきた。
「あの時のTシャツを着たお客さんがこの店においでになりまして。あれは2015、6年でしたかね。ええ、あのTシャツとは20年ぶりほどの再会でした」
倉庫として借りていた店舗が手狭になった。そこから200m程離れた今の店に引っ越した。
「広くなったんだから、ショップも併設しようか」
あのTシャツだけではショップの棚もハンガーも埋まらない。何で埋めよう?
「だったら、バイクウエアだ!」
ファッションと並んで二渡さんをとらえ続けてきたもう一つの趣味、バイクが服とつながった。
仕入れを済ますと、お金はほとんどなかった。だから、店舗デザインも内装も自前である。友人が手伝いに来た。みな素人だから、棚は突き合わせが狂っているところもある。床に流したコンクリートも平らではない。
「いいよ。乗せるのは軽い衣料品だから棚が崩れ落ちることはないさ。チグハグさもデザインだ。床? 歩きにくかったら、この店を忘れないだろ?」
プロに頼んでいたら、こんなにはならなかったはずだ。個性的という範疇を飛び抜けた奇抜な内外装の源は、資金不足にもあったのである。
アメカジと一括される衣服から、これならバイクに合うだろうというものを選んで仕入れ、棚に並べた。地元では初めてのバイクウエア専門店の誕生である。
1995年、「FREE RIDE」が産声を上げた。
自由に走るのが最高! 店の名前にはそんな思いを込めた。
写真:「FREE RIDE」の床には様々なものが埋め込まれている。