バイクがたくさん並んでいる店は何を置いても寄る。ライダー仲間は見ただけで分かる。初対面なのに話が弾む。
「あれー、あなたも『FREE RIDE』のウエアを使ってるんだ。俺と同じだね」
初めて会ったライダーによく声をかけられる。どうやら、私が作って売っているとは知らないらしい。二渡さんは嘘をつく。
「あ、ホントですね。趣味が合うんだ」
「いいよねえ、このウエア。買ったら、バイクに乗るのがさらに楽しくなったんさ」
旅で仕事の話はしない。1人のバイクラーダーになりきる。しかし、よかった。喜んでもらってる!
「ここなら誰もいないだろうと思って行くところにも、いるんですね、誰かが。ポツンと1人でいるんです」
何もしなければ絶対に接点がなかった、地縁も血縁も仕事関係も利害関係もない2人が、思いもかけないところで出会い、何かを通い合わせる。二渡さんは胸のあたりにホッカイロを入れたような気分になる。
とはいえ、楽しいだけが旅ではない。電車や車での旅とは違い、全身をさらけ出すバイクでの旅である。夏は容赦なく照りつける太陽に焼かれ、うだるような暑さにくるまれる。冬の極寒は骨の髄まで染み込み、手も足も感覚が遠のく。雨は遠慮なくたたきつけ、風はバイクもろとも持ち去ろうとでもいうかのように吹きつける。
「でもね、私は楽な旅より、試練の旅の方が好きなんですよ」
自然の厳しさに弄ばれ始めたとき、二渡さんは考える。そうか、こんな天候の中を走るには、こんなウエアがいるな。今のウエアも、ここをちょっと変えてやると楽になるぞ。過酷な旅はアイデアの宝庫となり、新たな創作意欲を掻き立てる。
ガタガタの走りにくい道に出会うこともしょっちゅうである。激しく身体を揺さぶられ、何だこの道は? いつまで続くんだ? と不快感がこみ上げる。
「だけど、次の瞬間には『この道の先には何かがあるはずだ!』って楽しくなるんです。バイク旅ってそんなもんですよ」
一人旅を始めたのは20代だから、もう30年になる。「FREE RIDE」に並ぶオリジナル商品は、こんなロマンチストが旅で学んだ総てが詰まっている。
写真:バイクでの旅。二渡さん撮影。