REE RIDE ライダーは桐生を目指す その11 桐生においで

趣味が高じていまの姿があるとはいえ、やっているのは事業である。売り上げは多いにこしたことはない。

「それは分かるけど、売れさえすればいい、たくさん売った方が勝ち、というのは私のやり方じゃない。儲けることが先に来るようになると、何か大事なものをなくしてしまうとは思いませんか?」

「その8」でも書いたが、二渡さんは群れる魚には関心がない。たった1匹でもいい。心を込めて作った特別なウエアに興味を持ち、距離を厭わず惹かれてくる客が何より大事なのだ。

「私が、こんなイベント会場に店を出すようになったら、わざわざ桐生まで来ていただく理由がなくなるじゃないですか。たくさんのお客様の中に飛び込んで右から左にさばくより、私は、わざわざ『FREE RIDE』に来て下さったお客様にコーヒーを出し、バイク談義をし、デザインの狙いをじっくりご説明して納得していただいたほうがいい。それに、桐生を楽しんでもらえればサイコーです」

店主のそんな思いは以心伝心で伝わるものらしい。「FREE RIDE」には常連客が多い。店にいると

「こんにちは。お久しぶりです」

という挨拶を何度も聞かされる。仙台から、名古屋から、長野から。本当に全国各地からバイクでやって来る客が多いのだ。

「私がイベント会場に店を出すようになったら、その間は桐生の店は閉じなきゃいけない。遠くからわざわざ桐生まで来て、『あれ、今日は休み? せっかく来たのに』ということだって起きるでしょう。そんなことが続けば常連さんに見捨てられます」

そんな二渡さんも、数年に1回は仕事のやりくりをつけ、1参加者として「VIBES MEETING」会場にバイクを乗り付ける。

「そこそこいらっしゃるんですよ。一度もお目にかかったことがないのに、上から下までSKULL FLIGHTで身を固めていらっしゃる方が」

そんなとき二渡さんは声をかけたりはしない。胸の内でそっと

「ありがとうございます」

とつぶやくだけである。そして、胸の内でもう一言付け加える。

「次回は桐生の店でお会いしたいですね」

写真:VIBES MEETING

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