SDGs 岡田和裁研究所の2

【美容仕立て】
後継者の育成法を根底から刷新した五三さんである。和裁の技にも数々の改革を編み出したのは不思議ではない。針を持ちながら、より速く縫え、仕立て上がりが美しく、身につけて優美な和服にするにはもっといいやり方があるはずだ、と考え続け、アイデアが浮かぶとやってみた。こうして五三さんが新しく産み出した技は数十に上る。

中でも特筆すべきは「美容仕立て」である。

洋服は体型に合わせて仕立てるが、和服は体型に応じて着付ける。それが当たり前だった。だから和裁の採寸は大雑把で、例えばふくよかな女性用は男性用の寸法で済ませていた。それで長すぎればたくし上げて紐で縛り、帯で隠す。横幅が大きすぎれば脇の部分をたくし込んで帯で強く締め付ける。どうしても着崩れが起きやすいが、

「和服はそんなもの」

と誰もが思って疑わなかった。

だが五三さんは、

「和服も体型に合わせれば、より美しく装うことができ、体の動きも楽になるはずだ」

と考えた。戦後急速に普及した洋服からの影響もあったのかもしれない。

美容仕立ての採寸表

五三さんは伝統という強固な殻から和服を救い出し、新しい美を和服にもたらそうと考えたのである。コルセットなどからの締め付けから女性の体を解放することとファッション性の両立を目指したといわれるデザイナー、ココ・シャネルに通じる哲学を、五三さんは自力で構築した。和裁にかけた熱意の成果である。

美容仕立ての研究は戦後間もなくスタートし、形になったのは昭和40年(1965年)のことだ。採寸はバスト、ヒップ、身長、裄(ゆき)、首回り、褄下(つました=衿の先から裾までの長さ)と多岐にわたる。これらを数値化して表にまとめた。依頼主の体型を採寸すれば、その人に最もフィットした和服を仕立てられるようにしたのである。

(こちらから、pdfで採寸表を見ていただけます。美容仕立て_NEW

しかも、五三さんは「美容仕立て」を含む自分の技をすべて公開した。文書にまとめたものもある。講演を依頼されれば演壇に立ち、技術指導を求められれば喜んで教えた。いまでは「美容仕立て」は全国に広がり、和裁の基本技術の1つである。

いまでも使われている教科書

昭和50年代、労働省認定の和裁教科書「和服裁縫」上下2巻と別巻を、編集委員長として7年がかりでまとめ上げたのも五三さんである。いまでも全国の和裁教習所で入門者から習熟者にまで広く使われているのは、基本から高度な技まで、五三さんが学び取り、開発してきた技術の総てが注ぎ込まれているからだろう。

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