【未来】
いま、和服は衰退の一途にある。日常着の地位を追われ、和服が必須な時代劇の制作本数が減り、最後の頼みだった花柳界にもかつての勢いはない。成人式や結婚式の着物もほとんどレンタルで済ます時代である。流れに歯止めはかからず、2008年には約4200億円あった着物の売り上げは、2021年には2446億円に減った(きものと宝飾社調べ)。どれほど技を研ぎ澄まそうと、和裁は和服と運命をともにせざるを得ない。岡田さんたちが育ててきた技はいずれは消え去るしかないのか?
とあるデザイナーの卵にそんな話をしたのは、和裁の未来を考えて原稿の執筆に行き詰まったころだった。彼は怪訝な顔をしてスクラップブックを開いた。
「これ、知ってますよね」
見せられたのは、映画「スター・ウォーズ」の主役、ルーク・スカイウォーカーの写真だった。
「彼が着ている服、何に見えます?」
「スター・ウォーズ」は何度も見た映画である。だが、登場人物の服にまで注意をしたことはなかった。筆者は目の前にある写真を見た。
「あ、これは和服じゃないか!」
「和服はね、世界で意外に評価されてるんですよ」
桐生の刺繍作家、大澤紀代美さんは、世界のファッションをリードするパリ・コレクションに出品する日本人デザイナーの仕事を何度も手伝ってきた。
大澤さんはいう。
「和の技を取り入れた作品をパリコレに出品した日本のデザイナーは結構いるわよ。故・森英恵さんや桂由美さんは友禅染めを大胆に取り入れたし、先日亡くなった山本寛斎さんは歌舞伎衣装をデフォルメしてね。結構売れたみたいよ」
彼らは洋の美に和の伝統で挑んだ。
2022年1月、デザイナー、中里唯馬さんも和の技をひっさげてパリコレに登場した。「リミナル(境界領域)」をテーマに掲げ、和服から発想した「折り紙ドレス」を出品作に加えたのだ。生地はすべて和服と同じ直線断ちし、生地に明けた穴に紐を通し、その紐の絞り方を様々に変えることで多彩なひだを持つドレスにした。西洋と東洋を融合した境界領域を創出して大きな拍手を受けたのである。
ファッションが時代を写し出すのなら、和服、和裁にフットライトが当たる日が必ず来るはずだ。中里さんたちは、そんな未来へのドアを開く挑戦を続けているともいえる。
岡田和裁研究所を受け継ぐのは、成雄さんの長男和浩さんと、やはり和裁士の妻由理さんである。これまで2人は五三さん、成雄さんの技を受け継ぎ、研究所を維持することに全力を挙げてきた。しかし最近、
「何かが足りない」
と思い始めた。研究所を、そして和裁という技を未来に繋ぐためには何かが足りない。
「これからは和服関係以外の情報も必要だろう。若い人達に和服の良さを知ってもらえる新しいものを作りだして発信する必要もあるのではないか」
その「何か」を探す旅を2人は歩き始めている。まだ五里霧中である。だが、晴れない霧はない。気鋭の向こうに2人は何を見るのか。期待を寄せるのは、決して筆者だけではないはずだ。